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東京高等裁判所 平成6年(行コ)180号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

一  控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。」との判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。

二  事案の概要は、次に補正し付加するほか、原判決の事実及び理由中の「第二 事案の概要」の項のとおりである。

1  原判決三枚目裏末行の「現在、」から四枚目表一行目までを、次のとおり改める。

「東京高等裁判所は平成六年三月一〇日、右請求人らの控訴を棄却し、右住民訴訟は現在、上告審の最高裁判所に係属中である(以下、この訴訟を「本件住民訴訟」という)。また、池子弾薬庫敷地内のいまだ国の所有名義になっていなかった土地につき、従前の所有者らが国を被告としてその所有権等の確認を求める請求と、国が従前の所有者らに対して所有権移転登記手続等を求める反訴請求の訴訟が横浜地方裁判所横須賀支部で審理され、平成四年三月二三日に本訴請求棄却、反訴請求認容の判決があり、控訴審の東京高等裁判所で和解が成立した(甲一三ないし一五号証、当裁判所に顕著な事実。以下、この訴訟を「本件民事訴訟」といい、本件住民訴訟と本件民事訴訟を総称して「本件別訴」という)。」

2  四枚目表九行目、一〇行目を次のとおり改める。

「5 なお、控訴人は、本件住民訴訟及び本件民事訴訟が、本条例五条(2)ウの『争訴』に該当すると主張している。」

3  五枚目表二行目の「事業及び将来の」を「事業又は将来の」と改め、同三行目の「喪失し、また」を「喪失し、又は」と改める。

4  同六行目の次に、次のとおり加える。

「 本条例五条(2)ウ所定の「市又は国等の機関が行う事務又は事業」のうち国の機関が行う事業とは、市あるいは市長など市の機関が、機関委任事務等により国の機関として行うものに限られるのであり、国ないし国の機関が主体となっているものは含まれない。また、同条項の「争訟」とは、現に係属しているか、将来行われる具体的蓋然性の高いものをいうのであり、単なる事実関係に関する情報は、争訟の方針に関する情報には当たらない。」

5  同裏二行目の「適正かつ」を「公正かつ」と改める。

6  六枚目表一行目の「本件別訴」を「本件住民訴訟」と改め、同三行目の「別訴」を「右訴訟」と改める。

7  同九行目の次に、次のとおり加える。

「 具体的には、池子弾薬庫敷地内に国有地として未登記の土地が多数あるが、逗子市職員に対する聴取書の中には、未登記のままである理由として、売買契約の有無、代金の授受の有無に触れている部分がある。昭和五九年に逗子市から国に池子弾薬庫内の土地の所有権移転登記がされた際の逗子市の処理方法も記載され、本件別訴及び住民による新規の争訟となる可能性がある。そこには、弾薬庫内の逗子市名義の土地に関し、国と交渉をした経緯が記載されている部分もあり、公開されれば、国の処理方法が明らかになり、各地の基地訴訟に影響する。

横浜地方法務局横須賀支局職員に対する聴取記録には、逗子市が国に対し、弾薬庫内の土地について真正な登記名義の回復を原因としてした所有権移転登記の有効、無効についての考え方が示されている。関東財務局横浜財務事務所横須賀出張所職員に対する聴取記録にも、真正な登記名義回復登記についての考え方、国の機関間の覚書についての発言などがある。

横浜防衛施設局施設管理課職員に対する聴取記録には、真正な登記名義の回復登記についての国の慣例が述べられ、大蔵省から引き継いだ未登記土地についての処理方法、池子以外の東富士演習場にも言及されており、また、全国の未登記土地について、地主との間における民事上の紛争の処理の仕方、手法についての供述や、国の民事訴訟解決の手の内も示されているし、池子弾薬庫敷地内の逗子市所有地について、戦前からの国の取得手続方法、有効性に関する感想の記述がある。この記録には、国が全国に散在する基地内の未登記土地についての処理方法が記載されている。

これらは、本件別訴の国の争訟の方針に関するものである。」

三  当裁判所も、本件各処分は本条例に違反し、違法なものであると判断する。その理由は次のとおりである。

1  本件にかかわる本条例の規定並びにその趣旨は、原判決六枚目裏末行から八枚目表一〇行目にかけて示されているとおりである。

もともと、本件各文書は、昭和五九年及び昭和六〇年監査請求があったことから、監査委員が関係行政機関等に対して事情聴取をした結果のものであり、その内容は、基本的に事実関係の調査結果に係るものであることが、その性質上自ずと推認できるところ、控訴人が当審において主張するところをもってしても、本件各文書に事実関係の調査結果の範疇を超える事項を聴取した結果の内容にわたる部分のあることを認めるには足りない。その中には、関係行政機関の従前の取扱いあるいは法的解釈について事情聴取が及んでいる部分のあることも認められるが、これも、例えば国に対して行われた真正な登記名義回復による所有権移転登記の原因に関する法的解釈、あるいは国から土地の元所有者に解決金が支払われた事実のあることなど、従前の取扱いについての質問事項に関する聴取結果を含むにすぎないものと認められるのであり、そこに争訟の方針に関する事項にわたる部分があるものとすることはできない。本条例五条(2)ウにいう争訟の方針に関する情報とは、現に係属し又は係属が具体的に予測される事案に即した、事件の見通しなどの浮動的な法律解釈や事実認定に関する事項、更には処理方針に限定されるものと解されるのであり、住民からの監査請求があったことに伴い、関係行政機関の事務処理に適正を欠くものがあったことが裏付けられる事実関係に関する情報は、仮にこれが新たな争訟を誘発することになるにしても、行政の適正を住民に判断させる情報を公開する趣旨に出たものと解される情報公開条例が制定施行されていることにかんがみると、本条例五条(2)ウにいう争訟の方針に関する情報に該当するものと解されないことは明らかである。そうでないと、一般的な行政解釈や従前の行政庁の処理に関する事項がすべて非公開とされるべきことになり兼ねない。

控訴人は、池子弾薬庫内の土地につき逗子市のために保存登記をしたことあるいは国に対して所有権移転登記をしたことの原因に必ずしも明らかになっていない点があり、この点が公開されることになると、将来の市有地の移転、さらには、市政に対する疑いを広げることになり、市政の公正、かつ適正、又は円滑な執行を妨げる結果になるとも主張するが、そこには、争訟の方針に関する事項がどのように示されていることになるかの具体的な主張はないし、ましてや市政の公正かつ適正、又は円滑な執行を妨げる結果になるとの点を認めるに足りる証拠もない。

その他、控訴人が当審で主張する一切の事情ないし本件全証拠をもってしても、本件各文書に本条例五条(2)ウに該当する部分があるとは認められないし、さらに、本件各文書の公開により、本条例五条(2)ウ所定の、「公開することにより当該事務若しくは事業又は将来の同種の事務若しくは事業の目的を失わせるもの又は公正かつ円滑な執行を著しく妨げる」との点を裏付けるべき具体的な事実も認められない。

なお、本条例五条(2)ウにいう「国(等)の機関が行う事業」との点については、特段の制限規定がない以上、被控訴人主張のように、市の機関が国の機関委任事務等により国の機関として行うものに限定されるものと解することはできない。

2  本件各文書が五条(2)アの非公開事由に該当するとの控訴人の主張が理由のないことは、原判決九枚目表九行目から同裏五行目にかけて示されているとおりである。ただし、同裏四行目の「のみならず、」から同五行目までを、「のみならず、ここで控訴人の主張する右(2)アの事由中の公正又は適正性が妨げられる意思決定の意味は明確でないが、本件各公開請求時においては、既に、昭和五九年と昭和六〇年監査請求に関する監査結果は監査請求人に通知されているので、当該監査結果の意思決定を妨げることがないことは明らかであるし、監査委員の調査の結果を公開することが一般的に公正適正な監査の意思決定を妨げることになるとも認められない。」と改める。

四  そうすると、本件各処分を取り消した原判決は相当であり、本件控訴は理由がない。

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